認知症 DEMENTIA
認知症とは
これまで正常に働いていた脳の機能が、神経変性疾患(アルツハイマー型認知症、レピー小体型認知症、前頭側頭型認知症 など)、脳血管障害、頭部外傷、感染症といった病気や障害をきっかけとして認知機能が低下するようになってしまい、次第に記憶や思考の面においても影響が出ている状態が認知症です。この病気を一度発症してしまうと、記憶力、判断力、認識する(時間や場所・人など)能力などが低下していくので、さらに症状が進行すると日常生活に支障をきたすようになるのです。
このような症状に心当たりがあればご相談ください(例)
- もの忘れがひどい
- 場所や時聞がわからなくなる
- 人柄が変わってしまった
- 判断や理解力が低下している
- 何事にも意欲がみられない
- 不安感が強い など
症状が物忘れとよく似ている
認知症とよく間違われるほど似ているのがもの忘れです。大きな違いとしては、先にも触れましたが認知症は病気が原因で起こるのに対し、もの忘れは加齢、いわゆる老化現象によるものです。ただアルツハイマー型認知症などは病気の自覚がなく症状が進行していくものですから、もの忘れとの違いは同居するご家族の方から見ても気づきにくいものと思われます。なお見分ける方法としては次のようなことも挙げられます。
例えば、もの忘れは体験したことの一部を忘れる、あるいは本人がもの忘れをしているという自覚があること、また日常生活に支障をきたすことがありません。一方の認知症は、体験したこと全て忘れている、本人がもの忘れをしている自覚がないということがあります。ただそうは言いましても、なかなか判断しにくいのが実情ですので、上記で挙げたような症状に心当たりがありましたら1度ご受診されることをお勧めします。
検査について
認知症が疑われる場合、発症の有無を調べる検査を行いますが、はじめに問診として、記憶障害、認知機能障害、日常生活の支障の有無や困難さなどの状態を確認します。さらに神経心理学検査(知能、記憶検査 等)をする場合もあります。また医師が必要と判断すれば、連携医療機関に依頼して、頭部MRIや脳血流シンチグラフィといった画像検査、あるいは脳波などを行い、診断の補助とします。
認知症の種類について
認知症は様々な原因疾患(病気)が引き金となって発症しますが、なかでも以下で説明する4つの疾患が原因で発症することが多いです。その4つとはアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の3つの変性性認知症と血管性認知症です。
なお全認知症患者様のうち60~70%がアルツハイマー型認知症の方で、さらに20%弱の方が脳血管型認知症の方で、4つの疾患全てを合わせると認知症の9割近くの方がこの4大疾患が原因と言われています。それぞれの特徴は次の通りです。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症とは
アルツハイマー型認知症は、アミロイドβ などの特殊なたんぱく質が脳内に蓄積されていくことで、やがて脳の神経細胞が破壊されて減少し、これによって脳の神経が情報をうまく伝えらなくなって発症すると言われています。なお特殊たんぱく質が増える原因はわかっていません。また、神経細胞が減ると脳は次第に萎縮していき、やがて脳の指令を受けている身体機能もだんだん失われていくようになります。多くの場合、70歳頃に発症し、全患者のうち女性が占める割合が高いのも特徴です。
脳血管型認知症
脳血管型認知症とは
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管疾患の発症が引き金となって、それらが原因で脳細胞に酸素が十分に行きわたらなくなって、やがて脳の神経細胞が減少していくことで発症する認知症です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症とは
レビー小体(神経細胞にできる特殊なたんぱく質)が、脳の大脳皮質(物事を考える器官)や脳幹(生命活動をつかさどる器官)に多く集まってしまうことで、脳の神経細胞が破壊され減少し、認知症を発症している状態を言います。初期の段階では幻想やパーキンソン症候群でよく見られる手足の震えや筋肉が硬くなるなどの症状がみられ、睡眠中にレム睡眠時行動障害が現れることもあります。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症とは
原因は判明していませんが、前頭葉と側頭葉の神経細胞が少しずつ破壊されることで発症する認知症です。初期症状では、性格変化や異常行動がみられ、そのうち言葉の理解ができなくなるなどの症状が現れます。比較的若い世代の方に発症し、ピック病と呼ばれることもあります。
治療について
現在の医療では、認知症を完治させる治療法はありません。ただ、早期発見・早期治療によって、病状の進行を遅らせることは可能です。その方法につきましては、薬物療法と非薬物療法があります。なお薬物療法については、認知症のタイプによって治療法が異なります。
薬物療法
アルツハイマー型認知症では、脳の神経細胞が壊れることで起こる症状(記憶障害や見当識障害など)をできるだけ改善させるのが治療の目的となります。したがって、病気の進行を遅らせる治療薬と、周辺症状(不安、焦り、怒り、興奮、妄想など)を抑える治療薬を使用します。レビー小体型認知症もアルツハイマー型と同様で、パーキンソン症状がある場合は、抗パーキンソン病薬を用いることもあります。
脳血管型認知症の患者様では、脳血管障害を再発させることで悪化させるケースが高いので「再発予防」に向けた治療を行います。具体的には、脳血管障害の高リスク要因である、高血圧、糖尿病、心疾患などをきちんとコントロールしていくと共に、脳梗塞を再発させないための予防薬を使用します。
前頭側頭型認知症につきましては、症状の改善や進行を防ぐなどの有効な治療法が現時点では確立していません。なお同疾患による特徴的な症状については、対症療法として向精神薬を使用することもあります。
非薬物療法
患者様に残っているとされる認知機能や生活能力を薬物に頼らずに高めていくのが非薬物療法です。同療法で脳を活性化させる方法は様々あります。例えば、医師から認知症と診断されたとしても、その時点では患者様ご自身で行えることはたくさんあります。そのため、まずはご家庭内で役割をつくる(洗濯物をたたむ、食器を片付ける 等)などして、前向きに日常生活を送れる環境づくりに努めてください。
このほか、昔の出来事を思い出してもらう(回想法)、無理をしない範囲で書き物の音読や書き取り・計算ドリルを行う(認知リハビリテーション)、音楽鑑賞や演奏をする(音楽療法)、花や野菜を育てる(園芸療法)といった方法も効果的です。
さらにウォーキングなどの有酸素運動(運動療法)、動物と触れ合う(ペット療法)、レクリエーションなども有効です。いずれにしても無理のない範囲で行うことが大切です。